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7時には夕飯の準備を終えてしまった柚子は、ほどなく手持ち無沙汰になってしまった。
勝手にテレビを見るのも気が引けるし、風呂でも洗おうかと思ったが、それもやはり躊躇われた。
もちろん五十嵐は怒ったりはしないだろうが…。
そんなこんなでコタツに入って携帯の無料ゲームで暇を潰していた柚子だったが、ガチャッと玄関のドアが開く音が聞こえて、弾かれたように顔を上げた。
時間はまだ7時半にもなっておらず、予定よりずっと早い。
コタツから飛び出し、走って柚子は玄関へ向かう。
「お帰りなさい!」
勢いこんでそう言うと、靴を脱いでいた五十嵐は一瞬驚いたような顔を見せ…。
すぐにふわりと微笑んだ。
「ただいま」
何気ないやり取りだが、二人は照れたように笑い合う。
「早かったんですね」
「はい、早めに切り上げてきてしまいました」
家に上がった五十嵐は、嬉しそうに台所に目を向けた。
「すげーいい匂いがする。腹減ったな」
「すぐに準備しますね」
「じゃあ俺は先に着替えます」
上着を脱ぎながら、五十嵐はリビングに向かう。
柚子もその後に続いた。
五十嵐は腕時計を外してから、おもむろに眼鏡を取った。
所定の位置にそれらをしまい、次にタイピンを外す。
ネクタイを緩めかけたところで、たまらず五十嵐は横に佇む柚子に目を向けた。
何故か、柚子がじっと五十嵐の所作を真横で見つめているのだ。
五十嵐は苦笑する。
「えっと…着替えるので、できれば向こうを向いててくれると…」
「………えっ、……あっ!」
柚子は今気付いたというように目を丸くし、直後真っ赤になってクルッと五十嵐に背を向けた。
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