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結局なんやかんやと話し込み、五十嵐の家を出たのは11時過ぎだった。
車に乗り込み、五十嵐はすぐに暖房を付ける。
「すみません、こんな時間まで引き留めて」
「大丈夫です。どうせ帰って寝るだけですから」
明るく言うと、五十嵐も笑顔を見せた。
車を発進させ、ほどなく車内も温まってくる。
(………鍵、いつ返そうかな……)
柚子はバッグに仕舞ったままの、五十嵐の家の合鍵のことを思った。
五十嵐はそれについて何も言わない。
結局、鍵のことを言い出す前に、車は柚子のアパートに到着してしまった。
「今日はご馳走様でした。ホントに美味しかったです」
「いえ。これぐらいなら、またいつでも……」
言いかけて、柚子は口を噤んだ。
少し目を伏せて髪を掻き上げる五十嵐の仕草が、ひどく疲れて見えたのだ。
「あ、あの……」
たまらず柚子は五十嵐の袖を掴む。
「五十嵐さん、今お仕事、お忙しいんですか?」
「………え?」
意表を衝かれたように五十嵐は柚子の顔を見つめた。
「どうして…ですか?」
「なんだか…とても疲れてらっしゃるみたいだから……」
「……………」
五十嵐はハッとしたように目を見張る。
柚子は考えた末、勢いよく顔を上げた。
「あの…!こ、今度は、お鍋しませんか?」
「え……」
唐突な話題に、五十嵐は面食らう。
「…………鍋?」
「は、はい。この前、テレビでスタミナ鍋のレシピやってたんで、私それ、作ります!」
「………………」
五十嵐はしばらく無言で柚子の顔を見つめ……。
直後、柚子の体を引き寄せて、そっと抱きしめた。
柚子は息を詰める。
五十嵐は柔らかく柚子の頭を抱え、耳元で小さく囁いた。
「………すみません。……1分だけ……」
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