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柚子の温もりを腕の中に感じながら。
それを感じられる自分は、幸せだと思った。
今のこの状況が、自分のせいじゃないことも、自分の力ではどうしようもないことも、わかっている。
ただ、その事実を柚子に黙っているだけで。
証に対してどうしようもない後ろめたさを感じ、罪の意識に苛まれる。
………だが、それを柚子に悟られているようでは駄目だ。
余計な心配をかけてしまっては、何も意味がない。
「あ、あの……」
柚子が身じろぎしながら声を出したので、五十嵐は閉じていた目をゆっくり開けた。
「えっと、べ、別に1分じゃなくても、5分でも10分でも、大丈夫ですよ」
「……………」
その言葉に五十嵐は目を丸くする。
直後、柚子の耳元で思わずクッと吹き出してしまった。
「………10分もこうしてたら、抱きしめるだけじゃ済まなくなりそうだな」
「……………」
その台詞に、腕の中の柚子の体がガチッと固まったので、五十嵐は笑いながら柚子の体を引き離した。
街灯に照らされた柚子の顔が、ほんのり赤く染まっている。
それでも心配げに、五十嵐の顔を見上げていた。
「色々あって、少し疲れてるだけです。心配させてすみません」
「そう…ですか。そうですよね」
柚子はわずかに目を伏せる。
証が急に本社に戻ることになり、仕事が忙しいのは当たり前のことだった。
そんな時に自分の心配までさせてしまっていることが、ひどく申し訳なかった。
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