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『…………はぁ? 前のアパートに戻ってる?』
案の定、柚子からの唐突な連絡に奈緒子は素っ頓狂な声を発した。
『確か成瀬の息子との契約が切れるのって、二週間ほど先じゃなかった?』
「………うん。そうなんだけど」
柚子は苦笑しながら壁にもたれた。
「色々あって、契約解消されたんだ」
『色々って何よ』
「えーと…話せば長いんだけど」
柚子は考えながら、ここ数日の出来事をかいつまんで話した。
奈緒子は黙って最後まで聞いていたが、柚子が話し終わるとやはり憤慨したように声を荒げた。
『バカね、どうしてすぐに私に連絡しなかったのよ。今すぐそんなアパート引き払って、私のホテルに来なさい』
「い、いいわよ、ホテル暮らしなんか向いてないし、落ち着かないし」
『だって不自由してるんじゃないの』
「………ううん、そうでもない」
柚子は窓越しに空を見上げる。
「この10ヶ月が分不相応な生活だったから。……夜は少し寂しいけどね」
『……………』
「それに、もう証とも会うことないし……安心したでしょ」
明るい声でそう言うと、奈緒子の不機嫌そうな声が返ってきた。
『どうせなら向こうに言われるんじゃなくて、柚子がこっぴどく振るって形の方がよかったわ』
「…………お母さん」
『で、どうするのよ? 確かあなたに告白した人って、もう一人いたのよね?』
「え、あー……」
柚子はドキリとして、思わず姿勢を正した。
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