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柚子を安心させようと、五十嵐は大きく頷いて微笑んだ。
それを聞いて、柚子は安堵の笑みをこぼす。
「……そう言ってもらえて安心しました。前に一度、小春に言われてからすごく気になってて……」
「小春?」
「あ、えっと…。鷺ノ森の時に同じクラスだった鬼龍院 小春っていう子がいるんですけど……」
「ああ…。鬼龍院の……」
小春のことを知っているような口ぶりに、柚子は驚いて五十嵐の顔を見上げた。
「ご存知なんですか?」
「ご存知も何も、しょっちゅう会社に押しかけてきてましたからね。いい加減取り次ぐなと証に言われて断りをいれたら、ぎゃーぎゃー電話越しに文句言われて……」
珍しく五十嵐はうんざりしたような顔を見せた。
相変わらずの我が儘お嬢様っぷりに、柚子は呆れ果てる。
「しかし、その彼女に何を言われたんです?」
途端に柚子の顔が暗く沈んだ。
「私みたいな犯罪者の娘が傍にいたら、証の株を落とす…って」
「……………」
「悔しいけど……それが現実なんですよね」
柚子は気を取り直したように、明るい笑顔で五十嵐に向き直った。
「だから結果的に、こうなってよかったんだと思います。………証にも、もう最後だって言われたし……」
言いながら、ツキリと針で刺したような鈍い痛みが胸に走った。
柚子はそれを押さえ込むように胸元を握りしめる。
「証のことはもう忘れます。私はもう…五十嵐さんの彼女だから」
「……………」
五十嵐はあやふやな笑みを返す。
柚子の表情や微妙な物言いに、一抹の不安が胸をよぎっていた。
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