狡い選択

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「楽しみだな」 柚子に視線を移し、ニコッと微笑む。 その笑顔を見て、柚子はホッとした。 (……とにかく落ち込んでても、五十嵐さんを心配させるだけだし。今は忘れて、五十嵐さんと一緒の時間を楽しもう……) 柚子は気持ちを切り替え、料理に集中することにした。 ただ待っているのが落ち着かないのか、五十嵐がどうしても手伝いたいと言うので、つみれ作りを任せることにした。 実際、二人で話しながらワイワイ料理することが新鮮で、楽しくて。 その間は、証のことを忘れることができた。 準備が整い、二人はコタツに潜り込む。 土鍋からは空腹を刺激するように湯気が立っていた。 「いただきます」 同時に手を合わせ、そう言う。 「すっげー旨そう。一人だとやらないから、鍋自体食べるの久しぶりですね」 「そうですよね。一人鍋って寂しいし材料余るし、なかなかやらないんですよね」 五十嵐の器に具をよそいながら、柚子は笑った。 (………だから証と、寒くなってからはここぞってばかりに鍋したんだよな……) 仕事から戻ってきて「また鍋かよ」と悪態をつく割には、証は喜んで食べていた。 ………ふとよぎった記憶に、柚子はハッとする。 慌ててかぶりを振り、浮かんできた顔を振り払った。 (も~。なんで一々思い出すのよ) 何かある度に証を思い出しては、そんな自分が嫌になる。 ………早く心から、出ていってほしいのに。  
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