狡い選択

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シメのうどんも食べ終わり、柚子は皿などの洗い物をしていた。 五十嵐は食後のコーヒーを淹れてくれている。 後片付けをしながら、柚子はずっと考え込んでいた。 ………きっと、何かにつけ証を思い出してしまうのは。 今の自分が、中途半端なことをしているからだ。 五十嵐と付き合うと決めたのだから。 身も心も、五十嵐のものになれば。 ………証のことは思い出さなくなる。 全てを五十嵐に捧げれば。 本当の意味で、五十嵐と結ばれれば。 きっと、五十嵐のことしか考えられなくなる。 誰も心に入れる余地なんかないぐらい、自分を五十嵐でいっぱいにしたい……。 最後の洗い物を終えた時、柚子は一つの決心をしていた。 「コーヒー入りましたよ」 すぐ後ろから五十嵐の声がかかった。 柚子は振り返り、笑顔を見せる。 「今終わりました。すぐ行きますね」 答えてシンクを綺麗に拭いてから、柚子はリビングへ戻った。 五十嵐は煙草を吸っていたが、柚子が来るとすぐに火を消した。 「お疲れ様」 「いえ、こちらこそ。コーヒーいただきます」 柚子はコタツに潜り込み、カップを手にした。 熱々のコーヒーが、台所で少し冷えた体を温めてくれる。 柚子はチラリと、向かいに座る五十嵐を見つめた。 にわかに、胸がドキドキと弾み出す。 意を決し、柚子はマグカップをテーブルに置いた。 「あ、あ、あの、五十嵐さん!」 突然大声を出した柚子を、五十嵐は少し驚いたように見つめ返した。 「はい」 柚子は恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じながら、思い切って口を開いた。 「あの…あの、今日、泊まっていっても…いい…ですか」  
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