狡い選択

17/40
前へ
/40ページ
次へ
五十嵐はわずかに驚いたように目を丸くした。 柚子は唇を噛み締め、五十嵐の反応を窺う。 (い、言っちゃった……) 恥ずかしくて、顔が熱くほてりだした。 だが意外にも、五十嵐は笑ってあっさりと頷いた。 「いいですよ」 その軽い口ぶりに、柚子の緊張が一気に緩む。 (……え、あ、あれ……?) 「寒いし、今から帰るのは億劫ですもんね。明日は日曜だから朝はゆっくりできるし」 「…………あ、あの」 「あ、じゃあ、すぐに風呂沸かしてきますね」 そう言うと五十嵐はサッと立ち上がった。 そのまま浴室へ向かう五十嵐の背中を、柚子は呆然と見送る。 (………もしかして…全然、伝わってない……?) 一大決心の申し出。 だが、五十嵐にその奥の意味までは伝わらなかったらしい。 (嘘でしょ~! こんな恥ずかしい思いするの一回で充分だよっ!) 柚子はコタツ布団に顔を突っ伏す。 そうして、今まで自分がしてきた数々の無神経な行動を改めて悔やんだ。 (私がずっと五十嵐さんの前で無防備なとこばっか見せてるから……肝心な時に気付いて貰えなくて当然か……) 警戒心がなさすぎると忠告されながら、それでも一緒にいてほしいと言ったり。 五十嵐の想いを知ってからも、淋しさに勝てずに言われるままについてきたり。 ………きっと今日もその延長線上で、ただ単に泊まっていくだけだと思っているのだろう。  
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1937人が本棚に入れています
本棚に追加