狡い選択

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体を洗い終わった柚子は、湯舟に入って膝を抱え、丸くなっていた。 風呂を出て、五十嵐と顔を合わせるのが妙に気恥ずかしい。 (いつも落ち着いてるのに……見たことないぐらいびっくりしてたな……) 初体験を貰ってくださいと言った時、言葉も出ないほど五十嵐は驚いていた。 結局その沈黙に耐え切れず、返事を聞く前に五十嵐の前を立ち去ってしまったが…。 きっと今頃、五十嵐も頭を抱えて悩んでいるに違いない。 (……ドキドキが止まんない……) 柚子はそっと小さな胸を押さえる。 息苦しささえ覚えるほど、ずっと鼓動が早く打ちっぱなしで。 今夜のことを思うと、胸が甘く疼く。 少しの恐怖心と、いよいよだという期待にも似た不思議な感情……。 (世間の女の子達って、みんなこんな風に感じるのかな……) 佐伯に求められた時はただ、恐怖と緊張でガチガチになってしまって。 結局、最後まではできなかった。 けれど今はあの時と違って、その緊張もどこか心地好くて……。 (五十嵐さんが大人だから、かな。安心して身をまかせられるから…?) それもあるが、きっと前に押し倒された時。 面倒臭いなんて思わない、どれだけ時間がかかっても辛くないように優しく抱くと。 きっぱり言ってくれたからなのだろう。 入浴剤で白く濁った湯舟から出た膝に軽くおでこを乗せ、柚子は緊張をほぐすように小さく吐息した。  
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