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キュッと蛇口を捻り、五十嵐はシャワーを止めた。
ふと目線を上げ、鏡に映る自分の顔を見つめる。
髪から流れる水が、顎で溜まってポタリポタリと滴り落ちた。
鏡が再び曇りだすと同時に、五十嵐は湯舟に浸かった。
両腕を浴槽に引っ掛け、天井を仰ぐ。
…………柚子はもう、答を出しただろうか。
「……………」
柚子がどんな答を出しても、自分はそれを受け入れるつもりだ。
………けれど、後悔だけはしてほしくないから。
だから最後にもう一度、自分は柚子に時間を与えた。
考えて、自分で導き出した答なら。
自分はそれを受け入れるだけだ。
………たとえ、証を忘れる手段だったとしても。
柚子がそう決め、自分に全てを委ねる決意をしてくれたのなら。
(他のことなんか考える隙も与えないぐらい、今夜、俺のことでいっぱいにしてやればいい……)
そう決意し、五十嵐はザッと立ち上がった。
髪を拭きながら部屋へ戻ると、柚子はベッドに腰を下ろしていた。
五十嵐が戻ってきたことに気付き、顔を上げる。
二人はしばらく無言で視線を交わした。
五十嵐は一度小さく息をつき、少し距離を取って柚子の横に腰を下ろした。
軽くベッドが軋み、柚子の緊張がかすかに伝わってくる。
五十嵐は前を向いたまま、口を開いた。
「…………答、出ましたか」
「……………」
膝の上でぎゅっと拳を握りしめ、柚子はゆっくりと五十嵐の顔を見上げた。
「……………はい」
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