1937人が本棚に入れています
本棚に追加
五十嵐の横顔に重い緊張が走る。
柚子のほうを見ることができないのか、虚空を睨むように前を向いたままだった。
「私……ちゃんと考えました。考えて……やっぱり、気持ちは変わらなかった……」
「……………」
「………私の全部を…五十嵐さんに貰ってほしい……です」
そこで五十嵐はようやく柚子に目を向けた。
まるで泣き出しそうにその瞳は揺らいでいて、柚子の胸がぐっと熱くなる。
柚子は頷いて、五十嵐をじっと見つめた。
思えば、改めてこんな風に近くで五十嵐を見たことはなかったな、と。
五十嵐の体温を間近に感じながら。
柚子はそう思った。
いつもは綺麗にセットされているのに、今は洗いたてで無造作な黒髪。
眼鏡を外すと際立つ、色素の薄い鳶色の瞳。
形のいい鼻。
いつも笑みをたたえている優しい口元。
シャープな顎のライン。
綺麗に浮かび上がった、喉仏と、鎖骨。
男の人らしい、大きな手。
その大きな手が、ゆっくりと動き。
ためらうように、少し上気した柚子の頬に触れた。
「…………本当に、後悔しませんか?」
柚子はキュッと唇を引き結び、大きく頷いた。
「はい」
それを聞いた五十嵐の顔に、かすかに安堵の色が浮かんだ。
柚子の頬を撫でながら、小さく笑う。
「おかしいな。風呂上がりの俺より、柚子さんの頬のほうが真っ赤で熱い」
「……っ、だ、だって、やっぱり、緊張し……」
その瞬間、柚子は五十嵐に体を引き寄せられ、強く抱きしめられていた。
最初のコメントを投稿しよう!