狡い選択

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五十嵐の横顔に重い緊張が走る。 柚子のほうを見ることができないのか、虚空を睨むように前を向いたままだった。 「私……ちゃんと考えました。考えて……やっぱり、気持ちは変わらなかった……」 「……………」 「………私の全部を…五十嵐さんに貰ってほしい……です」 そこで五十嵐はようやく柚子に目を向けた。 まるで泣き出しそうにその瞳は揺らいでいて、柚子の胸がぐっと熱くなる。 柚子は頷いて、五十嵐をじっと見つめた。 思えば、改めてこんな風に近くで五十嵐を見たことはなかったな、と。 五十嵐の体温を間近に感じながら。 柚子はそう思った。 いつもは綺麗にセットされているのに、今は洗いたてで無造作な黒髪。 眼鏡を外すと際立つ、色素の薄い鳶色の瞳。 形のいい鼻。 いつも笑みをたたえている優しい口元。 シャープな顎のライン。 綺麗に浮かび上がった、喉仏と、鎖骨。 男の人らしい、大きな手。 その大きな手が、ゆっくりと動き。 ためらうように、少し上気した柚子の頬に触れた。 「…………本当に、後悔しませんか?」 柚子はキュッと唇を引き結び、大きく頷いた。 「はい」 それを聞いた五十嵐の顔に、かすかに安堵の色が浮かんだ。 柚子の頬を撫でながら、小さく笑う。 「おかしいな。風呂上がりの俺より、柚子さんの頬のほうが真っ赤で熱い」 「……っ、だ、だって、やっぱり、緊張し……」 その瞬間、柚子は五十嵐に体を引き寄せられ、強く抱きしめられていた。  
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