狡い選択

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少し触れただけで、すぐに五十嵐は唇を離す。 柚子の反応を見るように顔を覗き込み、小さく苦笑した。 「………そんなに緊張しないで」 「………え」 「そんなガチガチに口閉じられたら、何もできません」 笑いを含んだ声を聞き、柚子の顔がカアッと熱く上気する。 「す、すみません!」 「いえ、仕方ないですよね」 五十嵐は笑いながら、明々と点く電気を見上げた。 「電気消したほうが、落ち着きますか?」 「え……」 「それとも、明るいままでしますか?」 からかうような口調に、柚子はブンブンと首を振る。 「け、消してください! 明るいなんて恥ずかしくて嫌です!」 「………消すんですか」 「だって……あんまり見られたくないし……」 柚子は俯きながら、ボソボソと呟く。 「全然見えないのも男としてつまらないですが」 「わ、わかってますけど……む、胸、小さいし……」 拗ねたような台詞に、五十嵐は思わずクッと吹き出した。 「まあ、それは薄々気付いてますけど」 「……………」 柚子はむうっと恨めしげに五十嵐を睨む。 「………ひどい」 「嘘です、冗談ですよ」 クスクス笑いながら五十嵐は立ち上がり、電気の紐を引いた。 途端に室内は暗く淡いオレンジ色に沈む。 再びベッドに腰を下ろし、五十嵐は少し膨れた柚子の頬に触れた。 「怒ったんですか?」 「………怒りました」 「でも緊張は解けたでしょう?」 その言葉に、柚子はハッと五十嵐を見つめた。  
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