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空気の読めない訪問者に、柚子は眉を寄せる。
決して人を訪うのに適した時間とは言えなかった。
確実に10時は回っているはずである。
五十嵐も同じ気持ちなのか、対応に出ずにじっと様子を窺っていた。
すると次に、少し強めのノックが聞こえた。
そして続けさま──…。
「陸。いるんだろ」
「……………」
聞き慣れた声が聞こえ、柚子と五十嵐は同時に目を見開いた。
(…………証……!!)
柚子の心臓がドクン、と弾む。
五十嵐はチラリと柚子に視線を投げ……。
乱れた服を整えながらおもむろにベッドから立ち上がった。
「柚子さんは、待っていてください」
「…………!」
柚子は弾かれたように半身を起こす。
よほど酷い顔をしていたのか、五十嵐は苦笑しながら無言で頷いた。
五十嵐はそのまま玄関へと向かった。
柚子ははだけた胸元を掻き合わせ、強く唇を噛み締める。
(なんで……なんで証が……)
先ほどまでは五十嵐でいっぱいだった柚子の心に、今は得体の知れない不安が色濃く渦巻いていた。
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