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五十嵐は玄関の前で一度呼吸を整えた。
信じられないようなタイミングで証の声を聞き、思った以上に動揺しているようだった。
意を決し、ドアを開けると。
目の前に、白い息を吐いた証の姿があった。
「…………どうしたんですか、こんな時間に」
「………ん、いや……」
探るように問われた証は、しばし瞳をさまよわせ……玄関にある柚子のブーツに目を留めた。
「…………あいつ、いるのか」
「………はい」
五十嵐は重く頷く。
証は笑って五十嵐に楽譜を押し付けた。
「これ、あいつの忘れ物。返しといてくれ」
「……………」
五十嵐は無言でそれを受け取る。
証はその場で、扉の閉められたリビングのほうに目をこらした。
「少しだけ、あいつと話していいか」
「え……しかし……」
「大丈夫だ、別に奪いに来た訳じゃねーから」
そう言うと、五十嵐の返事を待たずに証は家に上がり込んだ。
「ちょ、待ってください、証!」
慌てて五十嵐は証の後を追う。
制する間もなく、証は勢いよく戸を開けた。
「……………」
こちらに背を向けて、柚子はベッドの上に座っていた。
戸が開いた気配に、ビクリと肩を震わす。
その震えた肩が剥き出しになっていて、証はとっさに息を飲んだ。
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