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五十嵐は肩から下がった柚子のパジャマを、ゆっくりと引き上げた。
「今日はもう……寝ましょうか」
そう呟くと、柚子は勢いよく顔を上げた。
「どうしてですか!?」
「だって……続ける雰囲気ではないでしょう」
「私は大丈夫です!」
「…………柚子さんが大丈夫でも、俺は無理です」
柚子は大きく目を見張る。
思わず強い口調になってしまったことに気付き、五十嵐は慌てて笑顔を作った。
「こういうことは、ムードも大事でしょう?」
「……………」
柚子は唇を噛んで俯く。
両目からはハラハラと涙が零れ落ちた。
こんなに泣いているのに、このまま柚子を抱けるほど自分は図太くない。
他の男に完全に心を支配されたのがわかっていて、それでも抱きたいなんて思わない。
……………思えない。
「ごめん……なさい。ごめんなさい、五十嵐さん」
その謝罪さえ、五十嵐は軽い苛立ちを覚える。
持て余し、横をむいて小さく息をついた。
「柚子さんが謝ることじゃないでしょう?」
「……………」
柚子は申し訳なさそうに五十嵐を見上げた。
五十嵐は笑って、指で柚子の涙を拭った。
「ここで一緒に、寝てもいいですか」
そう尋ねると、柚子は少し驚いた顔を見せてから、静かに頷いた。
「…………はい」
頷いた拍子に、また大粒の涙が柚子の頬を滑り落ちていった。
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