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同じ布団の中に誰かがいる温もり。
それは懐かしい感覚だった。
こんな瞬間まで証のことを思い出す自分に、柚子はほとほと嫌気がさす。
ただ五十嵐に申し訳なくて。
心から消し去ろうとするのに、そうすればするほど、証の影が追い掛けてくる。
「柚子さん」
すぐ横から名を呼ばれ、柚子は閉じていた目を開けて五十嵐のほうに顔を向けた。
五十嵐は天井を向いたまま、口を開いた。
「明日は何か予定あるんですか」
「え……いえ。特には」
「じゃあ、どこか出かけましょうか」
そこで五十嵐は笑って柚子に顔を向けた。
「せっかく日曜だし、デートしましょう」
「……………」
どこまでも柚子を気遣うその優しさが、今は抉られるような痛みを覚えた。
五十嵐は優しい。
決して柚子を責めない、傷つけない。
だから自分も、もうこれ以上五十嵐を傷つけたくない。
柚子は五十嵐に向き直り、腕を伸ばしてその首にしがみついた。
「…………はい」
ホッとするような温もりも匂いも変わらなくて、柚子は夢中で五十嵐に頬を寄せる。
五十嵐はやんわりと柚子を抱きしめ返し、優しくポンポンと頭を撫でていたが……。
いつしかその腕の力が強まり、気が付くときつくその胸に抱きしめられていた。
応えるように柚子も五十嵐の背に腕を回す。
込み上げる不安を払拭しようと、しばらくの間そうやって貪るように、お互いの体にしがみついていた。
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