狡い選択

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自分はまだ学生だし、あと二年は履修が残っている。 保育士になる為の国家試験も受けなければならないし、受かったといってこの少子化の時代すぐに勤め先が見つかるとは限らない。 運よくすぐに働けたとしても、数年は仕事に集中したい。 (……って、まだ別にプロポーズされた訳でもないのに! 私、先走りすぎ……) 顔に熱を感じ、柚子はコーヒーを飲んでそれをごまかす。 「今日、どこに行きましょうか」 あらぬ方向に気を逸らしていた柚子に気付かず、五十嵐は声をかけた。 柚子はハッと顔を上げる。 「ど、どこに行きましょう?」 「寒いしな…。屋内のほうがいいですよね?」 「あ、私は別にどこでも……」 「んー……」 五十嵐は顎に手を置き、考えるそぶりをする。 しばらくして、苦笑しながら柚子に目を向けた。 「改めて俺達って、お互いのこと何も知りませんよね。趣味も、嗜好も」 「それは、でも……」 「何だか怖いな。知られていくうちに、つまらない男だってバレそうで」 自嘲の滲んだ声に、五十嵐が前の恋人にフラれた理由を思い出す。 柚子は真っ直ぐに五十嵐の顔を見つめ、静かに首を振った。 「私、知ってますよ。五十嵐さんがすごく優しくて、誠実だってこと」 「……………」 「ほ、他も色々。映画好きってこととか、運転が上手いこととか、あと田舎が淡路島ってこととか。あと、あと……」 指を折って懸命に話す仕草を見て、五十嵐は拳を口に当てて吹き出した。  
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