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「ありがとうございます、もうそれくらいでいいですよ」
「…………す、すみません」
赤くなって俯いた柚子に愛しさを覚える反面、言い難い罪悪感が込み上げてきた。
(……………誠実、か)
やはり柚子は何もわかっていない。
自分は決して、大人でも誠実でもない。
自分が柚子に黙っていることに比べたら、柚子が昨日ついた嘘など可愛いものだ。
目を逸らしてしまった五十嵐を見て、柚子はおずおずと口を開いた。
「あ、あの……」
「はい?」
「逆に、その…。私と付き合うことで、五十嵐さんに迷惑をかけてしまいませんか?」
「え?」
「だから、その…。私の過去のことで……」
五十嵐はハッと息を飲む。
柚子はうなだれるように深く俯いた。
「五十嵐さんの実家もすごく立派みたいだし、私の過去がバレたら、何かとご迷惑をかけるんじゃないかと……」
「柚子さん」
たまらず五十嵐は柚子の手を強く握りしめた。
例の談合事件のことが、引っ掛かっているようだった。
「あの事件のことで、あなたが負い目を感じることなんて一つもありません」
「……………」
「それに俺はもう成瀬の人間ではないし、五十嵐の家だってただの出戻りの息子というだけで、交際相手にとやかく口を出されるような立場にはありませんから」
柚子は不安げに五十嵐を見上げる。
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