星のない空の下で

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すると五十嵐は悲しげに瞳を揺らめかせた。 「ええ、勿論わかっています」 「だったら……!」 「けれど……自分の父親が嘘を真実にしてしまう力を持っていて……それを実行してしまう非情な人間だということも、証はよくわかっているんです」 柚子はぐっと言葉を飲み込む。 事実、何の罪もない自分の父親が成瀬に罪をなすりつけられ、犯罪者の汚名を着せられることになってしまった。 そのせいで自分の人生が狂ってしまったのは、紛れもない真実だ。 「おそらく証は……これ以上成瀬のせいであなたが苦しむことが、耐えられなかったのでしょう。 自分さえ犠牲になれば、柚子さんを守ることができると……。 俺にも本当のことを話さずに、証はその道を選んだんです」 柚子は呆然と五十嵐の顔を見つめる。 そうしてひどく面やつれしていた証の顔を思い出し、ハッとした。 柚子に投げ付けたあの残酷な言葉も、本心ではなく。 自分を憎まれ役にして、それでも柚子の幸せを願った。 陸のところへ行け、と。 あの時証はどんな想いであの言葉を口にしたのだろう。 『ただ……会いたかったんだ……お前に……』 身勝手だと思っていたあの行動も、あの言葉も。 おそらくただ、やるせなくて…… (…………証………!) 柚子はたまらず口元を覆う。 自分はただ証を恨んで、憎むことしかしなかった。 証が自分の為にどれだけの代償を払ったのか、何も知らずに……。  
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