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何とかして涙を止めたかったが、どうしても止まらない。
自分がこんなに嫌いになったことはなく、いっそこのまま消えてしまいたいとさえ思った。
「…………うっ……う…っ」
五十嵐は何も言わず、しばらく車内には柚子の悲痛な嗚咽だけが響いていた。
…………やがて、五十嵐は静かにドアノブに手をかけた。
「…………煙草、吸ってきます」
それだけを言うと、五十嵐はおもむろにドアを開けて車を降りた。
柚子は閉じていた目を開ける。
「……………」
白い息を吐きながら展望スペースへ歩いていく五十嵐の後ろ姿を目で追いながら。
涙の止まらない柚子を一人にしてくれたのだと、気が付いた。
自分がいては気を使い、無理に涙を止めようとするだろうと。
それなら一人にして、思い切り泣かせてあげたほうがいいと。
言葉にはしなくとも、その背中を見ただけで五十嵐の真意は伝わってきた。
(………何してんのよ、私は……)
今は証のことで泣いている場合ではない。
今、自分が向かい合うべき相手は五十嵐なのだ。
柚子との別れを選び、柚子が傷付くとわかっていて、それでも真実を伝えてくれた。
(五十嵐さんのほうが、私の何倍も何倍も、辛いはずなんだ……)
柚子はゆっくりと涙を拭う。
五十嵐はこう言った。
真実を知っても、それを受け止められる強さを柚子に持ってほしいと。
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