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柚子は真っ直ぐに五十嵐の顔を見上げた。
「私……強くなります」
力強くそう言い切ったところで、強く冷たい風が二人の間を吹き抜けた。
五十嵐の少し伸びた前髪がなびき、一瞬その表情を隠す。
「私、一人ぼっちだった頃はもっと強かったと思うんです。でも一度、誰かに優しくしてもらって、それに甘えることが当たり前になってしまってた……」
「……………」
「それに慣れきってしまってたからすぐには無理かもしれないけど……私、絶対に強くなります。………証がいなくても、五十嵐さんに頼らなくても、大丈夫なぐらいに」
そこで柚子は精一杯、微笑んでみせた。
「………だからもう、心配しないでください」
柚子のその笑顔を見た五十嵐の瞳が、大きく揺れた。
抱きしめたい衝動にかられ、なんとかそれを堪える。
「……………柚子さん」
「さっきはあまりのことに動揺してしまったけど……でも、やっぱり本当のことを聞けて、よかった……」
柚子は笑って五十嵐を見上げる。
「本当のことを話してくれて、ありがとうございます」
すると五十嵐は辛そうに眉をひそめた。
「責めないんですか、俺のこと」
「え?」
「…………あなたの気持ちが完全に証に向いてしまうのが怖くて、今の今まで黙っていた。……とても、卑怯なことをしたのに……」
苦しげな五十嵐の声に、柚子は小さく笑って首を横に振った。
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