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「私が苦しむから話せなかったっていうのも、事実なんでしょう?……その間で五十嵐さんがどれだけ葛藤して苦しんだかは、わかりますから……」
「……………」
先ほど五十嵐が語ったように、柚子を失う怖さと、真実を黙っていることの罪悪感の狭間で、もがくように苦しんで、悩んだことは容易に想像できる。
そして今日も、柚子に別れ話を切り出すこと、そして真実を話すこと……。
悩みに悩み抜いて、結論を出したのだろう。
そんな五十嵐を卑怯だなんて、到底思えるはずもなかった。
…………むしろ、卑怯なのは。
柚子は五十嵐の顔を見つめる。
その優しい鳶色の瞳と視線が絡んだ瞬間──……。
五十嵐との想い出が、堰を切ったように一気に胸に溢れ出した。
(…………うわ………)
たまらず柚子は強く胸を抑える。
キャバクラでの出会い。
裸エプロンの再会。
証が熱を出した時に慰めてくれたこと。
秘密のデート。
五十嵐が風邪をひいた時、看病に行ったこと。
証とケンカをして家を飛び出し、家に泊まらせてもらったこと。
証の出張中に、キスをしそうになったこと。
クリスマスイブの日、雪の中で交わした初めてのキス。
夕日が沈む中、海を見つめながら熱く告白してくれたこと。
そして、五十嵐の腕の中で眠ったあの日……。
いつだって、どの思い出も全部。
五十嵐は優しく、温かかった。
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