君の為なら

3/36
前へ
/36ページ
次へ
※※※※※※※ キィ…キィ…とブランコの軋む音が、冷えた外気の中やたらと響く。 昔はこんなに鳴らなかったように思うのに。 ブランコが古くなったせいなのか、自分が大きくなったせいなのか……。 「……………」 落ち込んだ時に、必ず来るこの公園。 ここに来て無心にブランコを漕いでいれば、何故かいつも心が軽くなった。 父の思い出が染み付いているせいかもしれない。 だが、今日ここへ来て柚子が真っ先に思い浮かべたのは、五十嵐の顔だった。 (証と大喧嘩して家飛び出して……行く当てもなくてここに来ちゃったんだよね……) あの秋の日、寒さに震えながら一人ブランコを漕いでいた。 悲しくてやり切れなくて、泣いてしまいそうだった時……。 五十嵐が、ここまで柚子を探して迎えに来てくれたのだ。 けれどもう、あの優しくて温かい人は、傍にはいない……。 (………私、ホントに一人ぼっちになっちゃったなぁ……) 苦笑を浮かべた直後、浮かんできた涙で視界が微かに滲んだ。 自分には結局、何も残らなかった。 愛した人も、愛してくれた人も。 けれどそれは、二人の心を弄んだ報いだ。  
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1858人が本棚に入れています
本棚に追加