君の為なら

6/36
前へ
/36ページ
次へ
『………どうしたの? 何かあったの?』 「……………」 『もしかして、外にいるの?』 矢継ぎ早に質問されたが、何から話していいかわからない。 グスッと鼻を啜り、頭の中で言葉を整理する。 「………お母さん、私……」 『何?』 「私……もうどうしていいか、わかんなくて……」 嗚咽で喉が詰まり、それ以上言葉が出て来なかった。 代わりに今まで我慢していた涙が、ボロボロと頬を伝っていく。 『泣いてたらわかんないわよ。今どこにいるの?』 「…………うっ」 『迎えに行ってあげるから。ちゃんと場所を言いなさい』 要領を得ないせいか口調は厳しかったが、言葉には心配の色が滲んでいた。 柚子はなんとか呼吸を整え、今自分がいる場所を奈緒子に告げた。 『わかったわ。すぐに行くから、待ってなさい。寒いから温かいものでも買って、痴漢に気をつけるのよ!』 まくし立てるようにそう言うと、奈緒子は電話を切った。 慌てたせいかどこから来るのかも言わず、あとどのぐらいで到着するのか見当も付かなかったが。 誰かが迎えに来てくれると思うと、不思議と柚子の心は温かくなった。    
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1858人が本棚に入れています
本棚に追加