君の為なら

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それから20分ほどして、奈緒子が公園に到着した。 ブランコに座っている柚子を目に留め、急ぎ足で歩いてくる。 取るものもとりあえずに来たのか、いつもの派手な格好ではなく、ラフなパンツスタイルだった。 「柚子……!」 名を呼ばれて柚子はゆっくりとブランコから立ち上がった。 奈緒子は柚子に駆け寄り、肩を抱く。 「まあ、こんなに冷えてるじゃないの! 何やってんのよ、あんたはもう…」 呆れたように言いながら、温めるように柚子の肩をさすった。 そのまま車へ向かって歩き始める。 柚子は横を歩く奈緒子をぼんやりと見つめた。 「………お母さん、この場所、覚えてる?」 「……………」 奈緒子はチラッと柚子を一瞥してから、白い息を吐いて肩をすくめた。 「覚えてるわよ。悪い思い出しかないわ」 ぶっきらぼうな奈緒子の言葉に、柚子は苦笑した。 無理もない。 ここは、セレブから一転して、豪邸から格安マンションへ引っ越すことになった場所だったからだ。 それからほどなくして家を出て行ったので、奈緒子には嫌な思い出しかないのだろう。 奈緒子は押し込めるように柚子を車に乗せ、すぐにその場を離れた。 「話はホテルに着いてから聞くから。それまでに涙を止めて、気持ちを落ち着けなさい」 強く前方を見据えたまま奈緒子はそう言った。 柚子は小さく頷き、涙を拭いながら窓の外に視線を移した。    
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