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無意識に柚子に触れていた証だったが、柚子が手を握り返してきたことでハッと我に返った。
慌てて柚子から手を離す。
(………あぶね。当たり前みてぇに触っちまった……。もうこいつは陸のもんなのに……)
突然証の手が離れ、柚子は目を丸くした。
後ろめたさをごまかすように、証は笑って柚子に向き直った。
「………でもまさか、N&Yの社長がお前の母親だったなんてな」
「…………あ」
証の言葉に、柚子はハッとする。
「そうだ。どうして証がここにいるの。私、何がなんだかさっぱりわからなくて……」
「………お前、母親から何にも聞かされてねーの?」
「うん。今日11時にここに来てって言われて……来たら証がいたの」
「…………そっか」
証は首の後ろに手を置きながら息をつき……直後クッと吹き出した。
柚子は驚いてそんな証を見つめる。
「…………証?」
「いやー、すげーな、お前の母親。まんまと一杯食わされたわ」
「…………え」
可笑しそうにクスクス笑う証を、柚子はポカンと見つめた。
「どういうこと?」
「つまり……俺の親父に対する、軽い復讐だよ」
「……………」
それでも柚子は理解できず、黙って証の言葉の続きを待った。
「お前の母親が、大きなファッションイベント開催するのって聞いてねーか?」
「………ああ。なんか大きなイベントするから忙しいっていうのは聞いてたけど……」
柚子はぼんやりと証の問いに答える。
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