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「まさかその主催者がお前の母親だとも知らずに、成瀬が仕事を貰おうとしたんだよ」
「…………えっ」
「成瀬は今、若者向けの事業に新規参入しようとしてて、新しく部署も立ち上げたんだ。それに今すげー力入れてて……だから手始めに、このイベントの仕事は何としても取りたかったんだ」
柚子はあんぐりと口を開ける。
まさかそんな嘘みたいな偶然があるなんて……。
「何にも知らずにうちが営業に来て……おそらくお前の母親、真っ先に復讐を思い付いたんだろうな。……悔しいけど、俺も親父も度肝抜かされたわ」
悔しいと言う割には、証の口調はどこか軽快だった。
むしろ喜んでさえいるように見える。
事の成り行きはなんとなく理解した柚子だったが、肝心なことが何一つ解決していないことに改めて気が付いた。
証の腕を掴み、ぐいっと証に詰め寄る。
「………ねぇ、ホントに会社の社長、辞めちゃうの? もう、どうにもならないの?」
「……………」
途端に証の顔から笑みが消え、冷めた表情になった。
横を向き、溜息をつく。
「それが、条件だからな」
「だから、私は訴えられてもいいって……!」
「よくねーよ」
証はキッと鋭い目を柚子に向けた。
「これ以上、成瀬のせいでお前の人生狂わせるなんて、俺は耐えられねーんだよ」
「…………そんなの、私だって同じだよっ!」
柚子はぎゅっと証の袖を握り締める。
「私だって、私のせいで証の人生狂わせたくないよ! ましてや結婚なんて……一生の問題じゃない!」
「…………結婚?」
証は眉を寄せて柚子の顔を見下ろした。
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