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「………それに多分もう、あなたのお父さんも反対しないと思うわよ?」
「…………は?」
証は間の抜けた返事をした。
奈緒子は意味ありげにニッと笑う。
「……………」
雄一郎がもう……柚子とのことを反対しない?
柚子が世間的に犯罪者の娘である事実は変わらないし、こうまで虚仮にされたことで、かえって逆鱗に触れたように思うのだが。
さすがにもう柚子を訴えることはしないだろうが、かといって交際を認めるとは到底思えない。
「…………何か、根拠でも?」
探るように問うと、奈緒子はふるふると首を振った。
「いーえ、根拠なんかないけど。……まあ、カンっていうやつ?」
「……………」
(…………なんじゃそら)
証はヒクッと口元を引き攣らせる。
21年間一緒にいた自分がどうにもできなかったあの難攻不落の父のことを。
今日会ったばかりの奈緒子が一体何を知っているというのだろう。
妙に達観したような証の表情を見て、奈緒子は呆れたように机に頬杖をついた。
「あなた達ってさぁ。今まで一度でも、腹割って本音で話したことある?」
「………………」
証は思わず黙り込む。
腹を割って話すどころか、雄一郎の前ではいつも優等生を演じ……。
どこか自分から一線を引いているようなところがあった。
「…………いえ。昔から父は忙しい人だったので……」
答えながら、これは言い訳だと証は感じていた。
向き合おうと思えば、いくらでも向き合える機会はあったはずだった。
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