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(………もしかしたら……)
父がずっと再婚しなかったのは、未だに母のことを忘れられないからなのだろうか。
あの父にそんな感傷的な部分があるなど、到底信じがたいが……。
「………わかりました。一度父と、ちゃんと向き合って話してみます」
何故か急に気持ちが逸り出し、証は奈緒子にペコッと頭を下げ、その前を辞去した。
机の上に置いたままだった書類を片付け始めた証に、奈緒子が声をかけた。
「待ちなさい。まだプレゼンが途中でしょ」
「…………え」
証は肩越しに奈緒子を振り返る。
「………でも……」
「話、途中までしか聞いてないけど?」
「……………」
証はザッと立ち上がり、奈緒子に向き直った。
「…………始めから、うちと仕事をする気はなかったのでは?」
「……まぁ、柚子の相手がただの七光りのボンクラ息子じゃ困るからね。どれだけ仕事ができるのか見極めたくて企画書を出せって言ったのは事実だけど」
そう言うと奈緒子は手元の書類をピラッと持ち上げてみせた。
それは証が作成した企画書であった。
「企画書、目を通させてもらったわ。……悔しいけど、若いだけあって目の付け所が違うし、すごく面白かったのよねー」
「……………」
「もしそちらがまだこの仕事取りたいって思ってるなら、詳しく話詰めたいと思うんだけど」
証は大きく目を見張る。
奈緒子はそれを見てニッコリ微笑んだ。
「どう? プレゼン、続ける?」
挑戦的に問われ、証は一瞬息を詰めた。
だが直後、奈緒子に挑むようにその口元にニッと笑みを浮かべた。
「─────もちろん」
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