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プレゼンを終え、本社に戻った時は既に夕刻だった。
鏡張りのビルに夕陽が映り込み、ビル全体がオレンジ色に染まっている。
証はそのまま真っ直ぐに社長室へ向かった。
ノックをしドアを開けると、秘書の東野が慌てて証を出迎えた。
「お帰りなさいませ、証様」
「………ただいま」
答えながら、証はデスクに座る雄一郎に目を向けた。
雄一郎は顔も上げず、黙々と仕事を続けている。
「東野。ちょっと席を外してくれるか」
「え」
東野はチラッと雄一郎に目を向けたが、特に異を唱えられることもなかったので、その場でペコリと頭を下げた。
「かしこまりました。では失礼します」
パタンとドアが閉まる音を背中で聞いてから、証はスッと雄一郎の前に歩を進めた。
「ただいま戻りました」
しかし雄一郎は仕事の手を止めず、目を書類に向けたまま皮肉るように口を開いた。
「随分ゆっくりしていたんだな」
「…………プレゼンの続きをしていたんです」
ピタッと雄一郎の手が止まる。
そこでようやく証の顔を見上げた。
「─────何?」
「僕の企画書を評価してくださったんです。……来週、正式に契約を結ぶことになりました」
「……………」
雄一郎の顔にみるみる苦い色が広がった。
喉から手が出る程欲しかった仕事の契約は取れたが、奈緒子の正体を知り、それを素直に喜べない複雑な気持ちがその顔に滲み出ていた。
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