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「あの子がそうまで自分を卑下していることも、あんたの息子と交際することにいちいちあんたが柚子を査定することも、何もかもが許せなかった」
「……………」
「さあ、どうしてやろうかって考えてたところに、なんとノコノコとそっちから葱しょって来てくれた訳よ。うちが主催するイベントの企画を、是非成瀬にやらせてもらえませんか…ってね」
そこでようやく奈緒子の表情が和らいだ。
代わりに雄一郎の顔がみるみる苦いものに変わっていく。
「まさかこんな女性向けのイベントにまで成瀬が参入してくるとは思わなかったから驚いたけど、すぐに思ったわ。……これはいい機会だってね」
「……なるほど。実行委員長の娘との結婚をちらつかせ、次はそちらがうちの証を査定しようと……そういう訳ですか」
雄一郎は吐き捨てるように言い、視線を横に向けた。
奈緒子はクスクスと笑う。
「ええ。可笑しかったわよ? 私がかつて陥れた橘の元妻とも知らずに、話に飛びついてくるんですもの。……15年前は雲の上の存在だった、あの成瀬がね」
「……………」
「今や柚子は選ばれるんじゃなくて選ぶほうの立場なのよって思い知らせたくて、今日この日ネタばらしするのをすごく楽しみにしてたのに……」
奈緒子はそこで瞑目し、はあっと深く嘆息した。
「あなたがバカ親すぎるせいで、すっかり予定が狂っちゃったわよ……」
バカ親という言葉に、雄一郎の眉がピクッと跳ね上がる。
聞き捨てならないというように、逸らしていた目を奈緒子に戻した。
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