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雄一郎がここまであからさまに嫌悪感を表情に出すことは珍しく、証はつい笑ってしまいそうになった。
「契約を結んでも、構いませんよね?」
「……………」
雄一郎の眉間に深い皺が刻まれ、考え込むように腕を組む。
証は雄一郎の返事を待たず、続きを口にした。
「それから…この仕事、僕に全面的に任せて貰えないでしょうか」
「……………!」
雄一郎は驚いたように証の顔に見入った。
証は目を逸らさず、正面からその視線を受け止めた。
雄一郎は訝しげに眉宇を寄せる。
「…………何故、だ?」
「え?」
「バックグラウンドを考えても、もう橘 柚子を訴えることはできない。……お前はもう無理に私に従うことはないんだぞ」
「……………」
「つまり……無理に本社に留まる理由は無くなったということだ」
そこで証は小さく笑って首を横に振った。
「僕はここに残ります。いずれ本社に戻ることは元々決まっていた話だし、僕の会社はもう新しい体制で動き出しています。……今また僕が戻ると言っても混乱を招くだけですし」
「……………」
「やり残したことがないと言えば嘘になりますが、それは本社で存分に発揮したいと思います」
その瞬間、雄一郎は見たこともないような表情を浮かべた。
わずかな喜色と、安堵。
それは証が見てきた今までの雄一郎の顔で、一番柔らかい表情だった。
それを目にした証は、ごくごく自然に次の言葉を発することができていた。
「…………橘 柚子との交際を、認めてください」
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