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「………………」
二人の間の空気がピンと張り詰めたことに、証は気付いた。
落ち着いていた心が、震え出す。
やはり長い時間をかけて蓄積されてきた父への畏怖の感情は、すぐには拭い去れるものではない。
だが意外なことに、雄一郎はさほど表情を変えなかった。
ある程度の予想はしていたというように、諦観の様子で深い溜息をついた。
「…………苦労するぞ」
「……………!」
証はハッと顔を上げる。
その言葉は、暗に柚子との関係を許すということを意味していた。
「どんなことがあっても、過去にあったことは消せない。
成瀬が橘を陥れたのは事実だし、そのせいで橘が犯罪者の汚名を着たのも事実だ」
「…………はい」
「そのことは永遠に、お前達二人の間に横たわることになる。
世間に面白おかしく騒ぎ立てられ、お前も、橘 柚子も傷付くことも少なくないだろう。
……その覚悟はできているのか」
証はゆっくりと、大きく頷いた。
「成瀬も……それから橘も、俺が守ります」
「……………」
すると雄一郎は再び大きな溜息をつき、腕を組んでフイと証から視線を外した。
「…………お前が全て覚悟の上というなら、勝手にしろ。もう私は何も言わん。………まあ、それらを踏まえても、N&YとD,Yアソシエーションの社長の娘なら、そう悪い条件ではないしな」
「……………」
素直に認めたくはないのか、最後はいかにも雄一郎らしい言葉でそう締め括った。
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