急転直下

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きっぱりとそう言い切って、雄一郎は早々に話を切り上げようとした。 奈緒子はそんな雄一郎を、憐れむように見下ろす。 「………あなた本当に、そう思ってるの?」 「ええ。思っていますが?」 「だとしたら、あなたの目は節穴ね」 雄一郎はギロッと奈緒子を睨み上げた。 「どういう意味です?」 「ここに来た時のあんたの息子、はっきり言って生きる屍みたいだったわよ。顔は笑っててもその目は何にも映してなくて、一切の感情が死んでしまってた。……綺麗な顔だから、何だか人形が座ってるみたいで、気持ち悪かったわ」 「……………」 「それがあなた、柚子が部屋に入ってきた時の変わりようと言ったら……。みるみる瞳に生気が戻って、顔に赤みが差して……まさに生き返りました!って感じだったじゃない」 「……………」 雄一郎は黙り込み、再び奈緒子から目を逸らす。 「企画をプレゼンしてる時も抑揚のない声で淡々と話してたのに、柚子と言い合いしてた時は本当に生き生きしてた。……まあ言葉は乱暴だったけど、年相応でかえって私は好感が持てたわ」 「……………」 雄一郎は先ほど、目の前で柚子と言い争いをしていた証をふと思い出した。 自分が傍にいることも忘れ、聞いたこともないような粗野な口をきき。 見たこともないほど、その顔は生き生きとしていた。 ………あれが、本来の証なのだろうか。 では、この21年自分が見てきた証は、果たして何だったのか……。  
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