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おかしな考えに陥りそうになり、雄一郎は慌てて首を振った。
脇に置いていた鞄を手にし、ゆっくりと立ち上がる。
「今回の話はなかったということで、よろしいですね?」
「……………」
「言わせていただくが、こんな仕事一つ取れなかったからと言って、成瀬は痛くも痒くもない。………むしろ、あなたはこれで完全に成瀬を敵に回した」
脅しのようなその言葉に、奈緒子は少しも怯まなかった。
それどころか不敵に笑ってみせる。
「あら、そんなことおっしゃって大丈夫なのかしら?」
「…………何?」
「向こうの離婚が成立したばかりだからまだ公にはしてなかったんだけど、私の再婚相手……D,Yアソシエーションの北野なの」
「───────!!」
雄一郎の顔が驚愕で歪むのを、奈緒子は楽しそうに見つめる。
「確かD,Yは……成瀬の最重要取引先じゃなかったかしら?」
「…………っ」
「私を敵に回すってことは、主人も敵に回すと……そう解釈してもよろしいってこと?」
「……………」
雄一郎は何も答えなかったが、強く握り締められた拳は、屈辱を堪えるように小刻みに震えていた。
それを見た奈緒子はニッと笑う。
この男のこんな姿を見られただけで、自分の目的は充分果たせたということにしておこう。
………あと、残る問題は……。
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