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「そんなことされて、私が喜ぶと思ったの? 証が犠牲になって、それで私は守られても、私ちっとも嬉しくなんかないよ」
「……………」
「私を訴えるって脅されたからって、何も証が会社まで辞めることないじゃない」
「…………つーか」
そこで証は柚子の言葉を遮った。
柚子は口を噤み、証の顔を見つめる。
「なんでお前がそれ知ってる訳? 一体誰から聞いたんだよ?」
「…………五十嵐さん」
「……………」
証は腕を組み、横を向いて深い溜息をついた。
「てか俺、陸にも詳しいこと話してねーんだけどな……」
「…………え?」
「────東野か。あのおしゃべり」
証は独りごち、チッと小さく舌打ちした。
柚子は意味がわからず、きょとんと首を傾げる。
それに気付いた証は、フッと苦笑して小さく首を振った。
「いい。こっちの話」
「……………」
柚子が怪訝そうに眉を寄せると、証は笑って手を伸ばし、柚子の頬に触れた。
親指でゆっくりと、まるで確かめるように何度も柚子の頬を撫でる。
柚子を見下ろす証の目には、愛しさが溢れていた。
(…………証………)
柚子の胸が、ちぎれそうに痛くなる。
懐かしい指の感触に、泣いてしまいそうになる。
好きの感情が溢れ出して、柚子はたまらず頬に置かれた証の手を握り返した。
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