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柚子が家を出ていってから、2時間が経過しようとしていた。
証は何度も何度も時計に目を走らせ、その都度深い溜息をついた。
気が付くと、灰皿の吸い殻が山盛りになっている。
「……………」
イライラというよりは、ソワソワしていた。
何かをして気を紛らわせたいが、仕事は手につかない。
結局何をしても同じだと気付き、再び証は煙草に手を伸ばした。
口にくわえ火を点けようとしたその瞬間、玄関のドアがガチャリと開く音が聞こえた。
証はハッと身を起こし、慌ててくわえていた煙草を箱に戻す。
「…………ただいま」
玄関から柚子の声が聞こえ、証は思わずソファーから立ち上がった。
パタパタというスリッパの足音が近付いてきたかと思うと、柚子がリビングに入ってきた。
証が立ってこちらを見ていることにびっくりしたのか、柚子は目を丸くして足を止めた。
「た、ただいま……」
「……………」
柚子の顔を見て、証はホッと肩を落とす。
「帰って……きたのか……」
「え?」
柚子は怪訝そうに眉をひそめた。
安堵と共に本心がつい口から漏れ、証は慌てて口を噤んだ。
そうしてじっと柚子を観察する。
(思ったより普通……だな)
もっと泣き腫らした目で、落ち込んだ様子で帰ってくるかと危惧していたが。
柚子の顔はどこかスッキリしたように、穏やかだった。
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