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「陸と…ちゃんと話できたのか」
「………うん。ちゃんと、サヨナラしてきた。……今までありがとうって、伝えた」
「…………泣かなかったのか」
「………ちょっとだけ、泣いた」
バツが悪そうに言って目を逸らした柚子を見て、証はふっと苦笑した。
「……………」
かすかな沈黙が流れ、二人の間に微妙な空気が漂った。
証はチラッと柚子の顔を窺う。
少し顔を曇らせている柚子を見て、証は思わず聞いてしまっていた。
「お前、さ」
「え?」
「ホントは、陸のこと好きだったんじゃねーのか」
証が言い終わると同時に、柚子はびっくりしたように目を見張った。
食い入るように証の顔を見つめる。
「どうして……そんな……」
「………だって、陸にすげー懐いてたじゃん。王子様とか訳わかんねーこと言ってたし……」
そこで証は言葉を止めた。
柚子の目がどこか証を責めるような色を帯び、かすかに潤んだからだ。
「………この前私が言ったこと、忘れたの…?」
「……………」
涙の滲んだ声を聞き、証はハッと我に返った。
『証が好き』
真っ直ぐに自分を見つめそう言った柚子を思い出し、証は気まずげに目を伏せた。
(………馬鹿だ、俺。不安をこいつに押し付けんなよ……)
らしくない『弱気』に、証は持て余して前髪を掴んだ。
「…………わりぃ」
顔を横に向けてボソッと呟いた証を、柚子は強く睨みつけた。
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