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「…………橘」
握りしめられた手も、自分を見つめる証の瞳も熱っぽくて、柚子はドキリとする。
証はどこか気怠げに、ぼんやりと口を開いた。
「………ありがとな」
「………え」
唐突に礼を言われ、柚子は面食らった。
「な、何が?」
「ん……。なんか色々」
面倒くさそうにそうまとめた証を、柚子は苦笑しながら見つめる。
「何それ。……っていうか、もう『橘』に戻っちゃうんだ」
すると証の顔がサッと薄く紅潮した。
それをごまかすように枕に顔を突っ伏す。
「改まると恥ずかしいんだよ」
「………さっきはあんなに呼んでくれたのに」
「…………るせーよ」
照れ隠しのように言った次の瞬間、証は不意に身を起こし柚子を囲うようにして覆いかぶさってきた。
その体勢で顔を見下ろされ、先ほどの行為が一瞬にして頭に蘇った柚子は、カァッと顔を真っ赤に染めた。
(………うわ)
証は柚子の瞳を見下ろしながら、そっと頬を親指で撫でた。
「…………辛かったか」
いたわるように優しく聞かれ、柚子は小さく首を振った。
「ちょっと痛かったけど、辛くはなかったよ。むしろ……幸せだなって思った」
それを聞いた証は軽く目を見張り、直後小さく微笑んで頷いた。
「………俺もだよ。さっきのありがとうは、そういう意味」
「…………証」
「うん」
証は柚子の指に自身の指を絡める。
そうしてゆっくりと唇を重ねた。
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