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子供のようにあどけない証の寝顔が、愛しくてたまらなかった。
ためらいがちに、目にかかった前髪を指ではらう。
(………綺麗な顔だな。……子供の時も、女の子みたいに可愛かったもんね……)
少しクセのある、焦げ茶色の髪。
いつも涙を湛えたように、潤んだ大きな瞳。
誰かの機嫌を窺うような、オドオドした態度。
『お前、俺のことすっかり忘れてたくせに』
(………忘れてたっていうか、変わりすぎててわかんなかったんだよ)
証の髪を撫でながら、柚子は再会した日のことを思い返した。
態度は傲慢で、ふてぶてしくて。
全身から自信が漲って、指先の動きまで洗練されていて。
自分を見返す瞳は、力強く真っ直ぐで。
自分より低かった身長は、見上げなければならないほど高くなっていた。
(………そりゃ気付く訳ないって)
柚子は思い出して苦笑する。
口を開けば憎まれ口で、笑うといったら皮肉げな嘲笑。
信じられないぐらい意地悪で、ドSで、エロくて。
あまりの落差に、始めはどれだけ戸惑ったことか──。
(………不思議。あの頃は証のこと、怖くて大っ嫌いだったのに……)
まさかこんな夜を迎えるなんて、夢にも思っていなかった。
寝顔を見るだけで、胸が潰れそうなほどに証を愛しく思う日が来るなんて……。
ジワッと柚子の目に涙が浮かぶ。
「…………ありがとう、証」
呟いて、柚子はそっと証から指を離した。
ゆっくりとベッドから足を下ろす。
下腹部に残る微かな痛みが、妙に気恥ずかしく、嬉しく感じた……。
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