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『今日までお世話になりました。
証には本当に、心から感謝しています。
最後にあんなに幸せな時間をくれてありがとう。
証も体に気をつけて、仕事頑張ってください。
柚子』
グシャッと証はその手紙を握りつぶす。
(最後……!? 最後って何だよ!?)
握りつぶした紙を腹立ちまぎれに床に叩きつけ、証は玄関へと向かった。
当然のごとく、柚子の靴は見当たらない。
「……………」
証はそのまま、寝室へと戻った。
惚けたように空っぽな気持ちで、ベッドに腰を下ろす。
…………夢、だったのだろうか。
昨夜のことは。
あまりにも柚子を求めすぎて、自分は夢の中で柚子の幻影を抱いたのだろうか。
だがその時、シーツに残された赤い鮮血の跡が証の目に飛び込んできた。
それは紛れもなく、自分と柚子が結ばれた証拠で。
(……夢の訳……ねーだろ!)
こんなに生々しく、柚子の跡が残っているのに。
全身全霊で感じた、柚子の全てがまだ自分の中に刻まれているのに。
…………やっと手に入れたと、思ったのに。
何故いつもいつも、まるで逃げ水のように、掴まえたと思ってもスルリとこの腕からいなくなってしまうのだろう。
そう思った瞬間、激しい憤りが胸にフツフツと込み上げてきた。
「───あん…っのヤロー…っ」
苦々しげにそう吐き捨て、証は力任せにベッドを殴り付けた。
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