1936人が本棚に入れています
本棚に追加
うわべの笑顔と、会話。
厭味の応酬。
隙あらば、ライバルを蹴落とそうとしている連中。
薄い氷の上に立つような、そんなギリギリの場所に証はいつも立っているのだ。
何かと訳ありな柚子と結婚するということは、そんな連中達にとって成瀬の足を掬う恰好の餌食になることぐらい、柚子にだってわかる。
雄一郎でなくとも何とか阻止しようとするだろう。
(なんか……あんまり深く考えてなかったけど、証が私を選ぶのって……物凄く無謀なことなんじゃ……)
まるで首都高速を時速200kmで逆走しながら、対向車に突っ込んでいくぐらい無謀なことなのではないのか……。
そう考え、柚子は顔から血の気が引いていくのを感じた。
今になって、小春の言ったことが現実味を帯びて柚子の胸に響く。
柚子が傍にいたら、証の株を下げるだけだ…と。
本社に戻ることになって、証にも気持ちの変化が生じたのかもしれない。
だから今、証は答を出さずに熟考しているのだとしたら……。
(………そっか……好きって気持ち、押し付けるだけじゃ駄目なんだ……)
もしこの三週間が、二人の未来の為の三週間だったのだとしたら。
証が答を出すのを、ただ待つだけでは駄目なんだ。
自分にだって夢がある。
その上で、自分が証とどうなりたいのか……。
ちゃんと自分で考えて、自分なりの答を出さなきゃ駄目なんだ───。
着地点の見えなかった自分の片思いの先に、柚子は何かを見つけたような気がした。
最初のコメントを投稿しよう!