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その日の晩、9時前になって証は帰ってきた。
本社に戻ってから、少し帰宅時間も遅くなっている。
玄関に出迎えに行った柚子は、いつものように鞄を受け取ろうとして驚いて立ちすくんだ。
ある程度予想はしていたが、チョコレートがぎっしり入った大きな紙袋を、証が提げていたからだ。
「………それ、全部チョコ?」
「ん? ……ああ」
気のない返事をして証は鞄とともに紙袋を柚子に手渡した。
柚子はそれを胸に抱え、リビングへ向かう証の後に続いて歩く。
「こんなにたくさん貰えるんだ」
「まあ、各部署から一個ずつだから、そんなもんじゃね?」
「………ふーん」
「お返しとかめんどいから、いらねーんだけどな」
ネクタイを緩めながら、証は吐息した。
「去年まではそーゆーの陸が全部やってくれてたからなー。今年はどーすっかな」
「……………」
柚子は黙ってネクタイを受け取る。
シャツのボタンを二つまで外したところで、証がボソッと口を開いた。
「………陸、今日出発した」
「……………!」
柚子は弾かれたように顔を上げる。
「………え」
「お前によろしく言っといてくれって」
「……………」
覚悟はしていたもののいざその時が来ると、どうしようもない淋しさが柚子の胸を襲った。
黙り込んで俯くと、証が柚子の額をピンと指で弾いた。
驚いて柚子は両手で額を押さえ、証を見上げる。
「あからさまに淋しそうな顔すんな」
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