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証の真摯な言葉に思わずぐらついてしまいそうになる気持ちを、柚子は何とか奮い立たせた。
そっと証の体を押し返す。
そうして俯きながら、小さく首を振った。
「………ありがとう、証。そんな風に言ってくれて。………でもね、私が証に相応しくないと思ったのは、それだけじゃないの」
「……………」
柚子が目を伏せたままポツポツと話し始めたので、証はわずかに身を引いてじっと柚子の顔に見入った。
「………私、この三週間証と過ごして……疲れて眠ってる証の顔見て、よくわかったの。
証はホントに物凄く重いものを背負っていて、それは社長になったら今の比じゃなくなるんだってこと。
………そしたら証の奥さんになる人は、そんな証をちゃんと傍で献身的に支えてくれる人がいいんだろうな…って、そう思ったの」
証は何も言わず、黙って柚子の話を聞いていた。
柚子は続ける。
「………だから私は、証に相応しくないって思ったの」
そこでようやく証は口を開いた。
「…………なんで?」
短くそう問われ、柚子は顔を上げて証の顔を見つめた。
「私……夢があるの」
訴えかけるようにそう言うと、証は静かに頷いた。
「私、保育士になりたいの。保育士になったら、その仕事は一生続けていきたいの。……結婚してからも、子供産んでからも、ずっと」
「……………」
「私はこの10ヶ月間、証の為だけに生きてきた。言うことには逆らわなかったし、自分のことよりもまず、証のことが優先だった」
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