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「でもそれは、そういう契約を結んでいたからできたことで……仕事をしながらは、絶対にできないと思うの。
夜遅くなることもあると思うし、行事に合わせて休日の出勤だってあると思う。
……そうなったら、家事だって満足にはできないかもしれないのに、とてものことこの10ヶ月みたいに、証に尽くすことはできない」
「……………」
「………だから……だから証には、ちゃんと家庭に入って、証と家のことだけを考えてくれる人のほうがいいって……そう思ったの」
言いながら柚子は、胸が締め付けられそうなほど苦しかった。
本当なら、このまま証とずっと一緒にいたい。
証が他の女の人と結婚するなんて、考えただけで気が狂いそうになる。
………けれど証のことを一番に考えると、やはり全てにおいて自分は証には相応しくないのだ。
「………だから……だから、私は……」
「────俺はお前に、尽くしてほしいなんて思ってねーよ」
静かに言葉を遮られ、柚子は言葉を止めて証を見上げた。
証は首に手を置き、ふーっと大きく吐息した。
「確かにこの10ヶ月、お前のこと奴隷扱いしてきたし、俺の為だけにお前が飯作ってくれたりして、それがすげー居心地良かったよ」
「……………」
「でも俺だって、んなこと契約の上に成り立ってたことだってわかってるし、結婚してからも同じようにしてほしいなんて思ってねーよ」
そこで証は片膝を付き、柚子の目を覗き込むように身を乗り出した。
「お前、言ったよな。子供の頃は怖いもの知らずで、深く考えずにプロポーズとかできたって」
「……………」
「………今回のプロポーズも、そうだと思うか?」
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