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「なかなか実現化しなかったんだけど、そういうことで有能な女性社員が辞めていくことの歯止めになったら、と思って。
いっそ本社のフロア1階まるまる、社員の子供限定の保育所にする案を、親父に提出してきたんだ」
「………………」
「………ま、親父にはよこしまな考えがバレバレだっつって、呆れられたけど」
「…………へ?」
柚子はきょとんと証の顔を眺めた。
証の言ったことはとても立派なことで、それのどこにヨコシマな部分があるのか、わからなかったからだ。
すると証はバツが悪そうに鼻の下を軽く擦った。
「親父は、お前が保育士目指してるって、知ってるから、さ」
「……………」
(……………え?)
そこで柚子は、何故証が柚子にそんな話をしたのかをようやく理解した。
柚子の表情を見て、証は大きく頷く。
「………お前の夢を、俺が共有したら駄目か?」
膝の上に置いていた柚子の手を、証はギュッと握りしめてきた。
柚子はゆっくりと証の顔を見上げる。
証の真っ直ぐな言葉が胸にスルリと滑り込んで、柚子の頑なな心をゆるゆると溶かしていった。
証は柚子と結婚する為に、ここまで色んなことを考えてくれていたのだ。
柚子は証の未来の為に身を引く決意をしたが、証は二人の未来の為に、あらゆる手を尽くそうとしてくれている。
そこまでして、柚子が欲しいと言ってくれているのだ。
それは幼い頃に交わした夢物語のような、つたない約束ではなくて。
どこまでも未来を見据えた、真っ直ぐで力強いプロポーズだった。
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