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「えっ、来週からですか? ……はい、……はい、大丈夫です!」
電話を切った柚子は、携帯を握りしめたまま思わずグッとガッツポーズを作った。
「よっしゃー! バイト決定!」
アパートに戻ってからすぐに面接を受けたバイト先から採用の連絡を受け、柚子は嬉しさでつい大声を出してしまった。
壁の薄いアパートだったことを思い出し、慌てて口を押さえる。
(……と、ヤバいヤバい。証のマンションじゃないんだから……)
興奮をなんとか抑え込み、柚子はふっと息をついて苦笑した。
証の家を出てから、三日───。
柚子は新しい生活へ向けて気持ちを切り替え始めていた。
4月からは学校も始まる。
すっかりなまってしまった体も心も、それまでに元に戻しておきたかった。
紙切れ一枚で証の家を出てきてしまったが、あれから証からも何の連絡もなく……。
もしかすると烈火のごとく怒った証からすぐさま連絡が入るかと思ったが、どうやらそれも杞憂に終わったようだ。
(………それをちょっと寂しいと思ってるうちは、まだまだだよね……)
携帯が鳴っても呼び鈴が鳴っても、証の顔が頭を過ぎるうちは、自分はまだまだダメなんだ。
とにかく全部、自分の力でやってみようと決めた。
奈緒子との同居も断った。
自分に突然降り懸かった三千万の借金も、証のおかげで返すことができた。
証がくれたチャンスを、間違えたくはない。
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