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その時、ピンポンと呼び鈴が鳴った。
柚子は思わず動きを止め、玄関を振り返る。
先程あんなに気持ちを切り替えようと思っていたのに、やはり脳裏を掠めたのは証の顔だった。
柚子はそれを振り払うように激しくかぶりを振る。
…………証の訳がない。
もし来るなら、出て行ったその日に来るはずだ。
ようやく想いを通わせ結ばれた直後、手紙一つで出て行った柚子に、きっと証は愛想をつかせたに違いないのだから……。
そう自分に言い聞かせ、柚子は立ち上がって玄関へ向かった。
「はい、どちらさまですか?」
小さく返事を返した次の瞬間。
─────バンッ!と。
施錠を忘れていたドアが勢いよく開けられた。
驚いた柚子は小さく悲鳴を上げる。
とっさに顔を庇うように上げた腕の隙間から見えたのは……
「……………!」
憤怒の形相で自分を睨み据える、証の姿だった。
柚子は唖然として証の顔を見上げる。
「…………あ、あ、証………」
上擦る声で証の名を呟いたと思った次の瞬間には、柚子は証に腕を掴まれていた。
そのままダンッ!と壁に体を押し付けられる。
「…………っ!」
あまりの衝撃に顔をしかめたが、証は柚子の顎を掴んでグイッとその顔を仰向かせた。
鼻がぶつかりそうな距離まで、柚子に顔を近付ける。
そうして醜く口元を引き攣らせながら、ドスの効いた声で言った。
「────てめぇ、ナメた真似してくれんじゃねーか……」
その冷えた声色を耳にし、柚子の背筋がゾーッと凍り付いた。
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