2125人が本棚に入れています
本棚に追加
「あのまま証の横で眠って、証の温もりを体が覚えてしまったら……きっと欲が出て、離れられなくなると思ったから……」
そこでとうとう柚子は顔を両手で覆ってしまった。
「………だから、決心が鈍らないうちにと思って、あのまま家を出たの……」
証が好きだから。
だからこそ、わかる。
自分が証に相応しくないことを。
だから、身を引く決意をした。
証の未来を邪魔したくなかったから。
もう二度と、自分が原因で証を苦しめたくなかったから……。
その時、柚子の目の前で証が軽く身じろぎした。
そうして、おもむろに口を開いた。
「今日は、お前を迎えに来た」
「……………」
柚子は覆っていた掌から顔を上げ、証を見つめる。
(……何これ……デジャヴュ?)
何だか以前、同じことを言われたような気が……。
そして確か、あの時は……。
嫌な予感に顔をしかめる柚子の前で、証は懐に手を入れ、何やらガサガサと紙を取り出した。
それをスッと柚子の前に差し出す。
「これ、新しい契約書。サインしろよ」
「……………なっ」
この期に及んでまだそんなことを言う証に、柚子は激しい憤りを感じた。
バン!と机を叩いて膝立ちになる。
「冗談じゃないわよ! また私に奴隷になれって言うのっ!?」
「…………バカ、早とちんな、よく見ろ」
言われて柚子は差し出された紙に訝しげに目を落とした。
最初のコメントを投稿しよう!