秋山 カズマ

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秋山の営業は顧客探しから始まる。 何件もの家の前でインターホンを鳴らす事はしない。立地から家々の資産を値踏みして1件の裕福な家を絞り混む。 世間では金持ちはケチだとか慎重だとか言うが、納得すれば貧乏だろうが金持ちだろうが金を落とすには変わり無い。変わるのは落とす金額。 秋山はそれを熟知していた。 そして彼は扱う商品を売り込む野暮な事はしない。彼の商品は自分自身。自分を売り込み信頼を掌握する。正に蛇。 自分の存在を一種のステータスだと思い込ませる。 後は金持ちの信頼を武器に交遊関係を乗っ取りそこで初めて名刺の出番と為る。 「──様と親しくさせて頂いてます。私こう言う者です」 このセリフを口にした秋山が持ち込む取引は全てに巨額の金が動いていた。 今しがたの電話も個人ではなく企業が相手。代議士の紹介でゼネコンとの太いパイプが出来て彼は鼻歌交じりに資料をまとめていた。 ソレが秋山の変わらない日常。この日も大手の取引を間近に彼は休日の過ごし方を考えていた。
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